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第6回「本で旅をしよう!」〜図書館員がオススメする本〜 

 第5回を掲載したのは10月15日、ちょっと間が空きましたが、「本の旅」第6回をお届けします。

〜生き心地の良い町〜

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『生き心地の良い町−この自殺率の低さには理由がある−』岡檀著(講談社)

 小説でも旅行ガイドでもないこの本を読み、私は知らない町を訪れ、町の人に会い、知恵を授けてもらった思いです。

 全国でもきわめて自殺率が低い「自殺“最”希少地域」、徳島県旧海部町。著者はその理由を知るため、町へ通い、たくさんの人から話を聞き、現地の調査に加え、統計や地理などをたんねんに分析し、まとめた本です。

 著者は、自殺は本人やまわりの人にはそれぞれの事情があり決して責められるものではないが、自殺率が低い理由を調べ、地域での予防につなげられたらと考えました。読んでいるとその熱い思いが伝わってきます。

 著者が調べると地域の特色が浮かび上がってきました。そのいくつかを紹介すると、

・いろんなひとがいていい、いろんなひとがいたほうがいい
・人物本位主義をつらぬく〜年長者や肩書でいばらない
・どうせ自分なんてと考えず主体的に社会にかかわる
・病は市に出せ・・・これは困りごとは病気でもトラブルでも、早めに公開すれば対処法が聞けたり、支援につながるという先達  の言葉。後の世代には、できないことはできないと早く言ったほうがよいとも伝わっているそうです。また困りごとを言いやすく、受けとめる状況も作られていました。
 そのほかにも、“生き心地の良い町”での知恵が息づいているようです。

 地域は全国さまざまですが、著者はこの単純で理解しやすい知恵の“いいとこどり”をおすすめしています。(S)

 

〜旅をする木〜

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『旅をする木(文春文庫)』星野道夫著(文藝春秋)(ほかに大活字本もあります)

 この本はアラスカの大地に長く暮らし、人々のくらしや自然、動物の写真をたくさん残した星野道夫によるエッセイ集です。珠玉のエッセイが三十数編、とてもあたたかな気持ちになります。

 彼のアラスカとの出会いは学生時代に見た1冊のアラスカの写真集。その中の北極圏の村、シシュマレフに強くひかれ、村に手紙を出し、19歳の夏にエスキモーの家族と数か月暮らすことになります。

 16歳の時に単身で太平洋を渡り、ヒッチハイクでアメリカを旅をした彼の、帰ってきてからのことばも印象的です。
 「元の高校生に戻っても、世界の広さを知ったことは、自分を解放し、気持ちをホッとさせた、ぼくが暮らしているここだけが世界ではなく、さまざまな人がそれぞれの価値観を持ち、遠い異国で自分と同じ一生を生きている」と感じたそうです。

 1996年撮影旅行中に事故で急逝したあとも、彼の写真や文章は私たちに様々なことを語りかけてくれるようです。

 彼の著書からもう一冊、子ども向けの写真絵本を紹介します。

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『クマよ(たくさんのふしぎ傑作集)』星野道夫文・写真 (福音館書店)

 都会に暮らしながら、アラスカの大地にいるクマと同じ時を生きていることに気づかされ、世界が広がるような絵本です。
 写真と文章がすばらしく、子どもから大人まで楽しめます。(S)

 

〜旅する本屋〜

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『モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子著(方丈社)

 本の行商人って何?!あの重い本をかついで歩きまわって売る?!それもイタリアから国境も越え、禁断の書も運んだとか。イタリア、トスカーナ州の山深い村゛モンテレッジォ”の歴史への旅が始まります。
  はじまりは、ヴェネツィアの古書店でした。そこは非常に居心地がいい古書店、それだけでも行ってみたい気持ちにさせます。そこで、先祖は本の行商人、と聞きます。゛モンテレッジォ”は山村の貧しい村で、栗しかはえていない山に囲まれた村。特産品もなく、はじめは「腕力」を売り歩いていた、と。すなわち農村の出稼ぎ。でも不況が続き出稼ぎ先もつぶれていく中。次に目をつけたのが本だった。そこで何で本?!
 村の歴史をひもといていくと、その地方の歴史、イタリアの歴史、世界にまで話は広がっていきます。籠に本をつめこんでの行商から始まって、屋台になり、露店になり、書店へと発展。そして、出版社・印刷会社にもつながっていくのです。

 この゛モンテレッジォ”から始まったのがイタリアの最も由緒ある文学賞のひとつ、「露店商賞」。なぜ「行商人」ではなく「露店商」と思ったのですが、時代が露店になっていったからなのでしょう。
 第1回目の受賞作が、ヘミングウェイの『老人と海』1953年の事です。ノーベル賞に先がけての受賞なのだそう。本屋だけで選出する文学賞で、賞金は「二千部以上は実行委員会が買い上げ、そのうち半分は刑務所や病院、生活困窮者の支援所などの図書室へ寄贈すること。残り半分は、全国の露店商たちに配本して売り広めてもらうこと」村人たちが先人から叩き込まれてきた鉄則が「本は必ず町の真ん中で売ること」深い意味が込められての言葉なのでしょう。

〜もうひとつのモンテレッジオ〜

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『もうひとつのモンテレッジォの物語』内田洋子/モンテレッジォの子供達著(方丈社)

 村の子どもたちはあるきっかけで、モンテレッジオの歴史について調べることになり、すばらしい本を作り出します。そして、「国際文学デザラル・コンクール」の「未来への才能部門」で優秀賞を受賞します。感動的なこちらの本もぜひ。(M)

 

〜本の旅あるき〜

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『ほんほん本の旅あるき』南陀楼綾繁著(産業編集センター)

 全国の図書館や小さな町の本屋さんの紹介と、そのまわりにある地元で有名なもの、珍しいもの、美味しいものも紹介する旅の本です。
この本の旅は岩手県盛岡からスタートし、終点は東京の都電荒川線です。読み終わると全国を旅した気分です。特に、筆者が、東日本大震災後、宮城県石巻市の復興のために本を贈るプロジェクトを実行したエピソードは、故郷を思い出して懐かしくなりました。

 この旅はもともと筆者である南陀楼綾繁(ナンダロウ アヤシゲ)氏が、谷中・根津・千駄木エリアで始めた「不忍ブックストリートの一箱古本市」というイベントをきっかけにして始まりました。「本の匂いがする。どこだろう、何だろう?」と、好奇心がいっぱいの筆者の魅力とともに、「一箱古本市」は全国に広がっていきました。時には、地元の人たちとお酒を酌み交わしながらゆく旅は、その土地ならではの様々な面白さを掘り起こします。
『ほんほん本の旅あるき』は、ガイドブックにはない、その土地の姿を見せてくれます。(T)

〜時間旅行〜

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『定本和田誠時間旅行』和田誠著(玄光社)

 時間を旅する――旅は空間の移動だけではありません。人は記憶をたどることで自身の思い出の中を旅することができます。和田誠さんは幼少の頃から絵を描くことが大好きで、まるで写真を撮るかのごとく目に写った物を描いて記録しています。膨大な数の作品はあたかも和田さんが綴った日記のようです。作品を見ながら彼のアルバムを覗き見しているかのように感じ、同時にその作品たちが生まれた時代へと導かれていくのです。星新一さんの短編集やマザーグースの唄の挿絵を見ると、学生時代に夢中で読み、そのブラックユーモアに背筋が寒くなったのを思い出します。また週刊文春の表紙絵を楽しみに書店に足を運んだこともありました。

 彼は映画のポスターを描くだけでなく監督を務めたり、時には作詞作曲を手掛けてみたりと実に多才です。海外に行っても美術館を巡るよりも生きている街を見ることが好きだと言っています。その時々に目にした生きている対象を絵に残すことが大好きだったのでしょう。この本は彼の生き様の記録であり、我々読者が思い出を巡る旅のアルバムでもあるのです。(S)

 

〜宇宙旅行〜

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『宇宙旅行入門』高野忠/パトリック・コリンズ/日本宇宙旅行協会編(東京大学出版会)

 現代において海外旅行は、一般的なものとなりましたが、「宇宙旅行」というものは未だ決して一般的であるとは言えません。宇宙旅行に行くまでにはどのような準備がなされるのか、安全性は、体への影響はあるのか、など宇宙旅行という未知のものに対する疑問は尽きません。

 この本では、それらの疑問に対して経済、医学、法律、歴史といった複数の視点から広く解説が行われます。現在どのような取り組みが行われているのか知れば知るほど、今は漠然としている宇宙旅行というものが具体化してくるのではないでしょうか。

 2040年に日本発の宇宙旅行が実現したと仮定する著者による宇宙旅行のシミュレーション小説もこの本の大きな魅力の一つです。フィクションではありますが、近い未来にまるで自身が宇宙旅行をしているような気分を味わえる物語となっています。

 将来宇宙旅行に行ってみたいと考える方から、宇宙旅行に関する事業に興味がある方など多くの方におすすめできる、まさに宇宙旅行の”入門”としてぴったりな一冊です。(I)