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「世田谷区家庭読書の日」にお届けするおはなし 第48回 コケモモのジャム〜こどもの頃に読んだ本の食べ物の思い出〜

作成日:2022年2月23日

世田谷区では、「毎月23日は、世田谷区家庭読書の日」として家庭での読書をすすめています。 

 毎月23日に図書館職員が子どもの本のことや図書館での楽しい出来事をお届けしています。

 第48回 スプーンおばさんの“コケモモのジャム”

 子どもの頃読んだ本に出てきた食べ物の中で、今も強く記憶に残っているのが、スプーンおばさんの物語に出てきた、コケモモのジャムです。

 スプーンおばさんは、体が突然ティースプーンくらいの大きさに小さくなってしまう元気者のおばさんのお話で、ノルウェーの作家アルフ・プリョイセンによる児童文学のシリーズです。1980年代にはアニメが放送されていたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 コケモモのジャムは、シリーズ第1作目にあたる『小さなスプーンおばさん』(学研)の「おばさん、コケモモの実をとりにいく」の中で出てきます。「パンケーキにコケモモのジャムが付いていない」と言ってため息をつくごていしゅ(夫)のために、おばさんは森へコケモモを摘みに行きます。ところが、コケモモを摘み終わったとたん、おばさんの体は小さくなってしまって…。 

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 おばさんがどうやってコケモモを家まで持ち帰ったのかは、本作をお読みいただくとして、小学生だった私は、この「コケモモのジャム」という見たこともない食べ物にすっかり心を鷲づかみにされてしまいました。当時スーパーなどで普通に売っているジャムといえば、いちごジャムかマーマレードくらいしかありませんでした。無いとがっかりするくらい美味しいコケモモのジャムって一体どんなジャム?と、頭の中が好奇心でいっぱいです。小さな丸い果物らしきものが本の挿絵に描かれてはいるものの、白黒の絵なので色すら分かりません。コケモモのジャムは正体不明のまま、憧れの食べ物になりました。

 最近ふとこのジャムの事を思い出して、植物図鑑と和英辞典で「コケモモ」を調べてみたところ、スノキ属つつじ科の常緑小低木で、英語ではカウベリー、マウンテンクランベリー、リンゴンベリーにあたることが分かりました。いずれも、赤くて小さな丸い実を付けます。ところが、インターネットでこのお話の洋書を検索すると、ブルーベリーやビルベリーと表記され、挿絵にも紫の果実が描かれているではありませんか。そして、実はブルーベリーやビルベリーもスノキ属つつじ科の植物なのです。ますます深まる謎!色々調べるうちに、ノルウェー語版のウィキペディアで掲載されているスプーンおばさんの記事にたどり着きました。そこに載っていた「おばさん、コケモモの実をとりにいく」の原題をノルウェー語辞典で調べてみると、コケモモと翻訳された単語はブルーベリーを指している事が判明しました。ビルベリーは、ヨーロッパに自生するブルーベリーの仲間です。スプーンおばさんは森へコケモモを摘みに行っていたので、ビルベリーである可能性も高いのではないかと思います。

 海外の作品を翻訳する際、国内であまり馴染みのない言葉は、読む人が想像しやすい言葉に置き換えられる場合があると聞きます。スプーンおばさんの場合も、翻訳・出版(1966年初版)された当時、日本ではまだブルーベリーに馴染みがなかったために、コケモモと翻訳されたのかもしれませんね。数十年の時を経て、憧れの「コケモモのジャム」の正体が判明したのでした。

 次の休みは、パンケーキを焼いてみようかな。もちろん、ブルーベリーのジャムを添えて!

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