「世田谷区家庭読書の日」にお届けするおはなし 第3回「加古里子さん」
- 全館
- 掲載日2018年5月23日
-
世田谷区では、「毎月23日は、世田谷区家庭読書の日」として家庭での読書をすすめています。
毎月23日に、図書館職員が子どもの本のことや図書館での楽しい出来事をお届けしています。
幼稚園の頃、加古里子さんの『からすのパンやさん』(偕成社)が大好きでした。「こげたパン」が世界中で一番のごちそうと思っていました。ページいっぱいに、たくさんのおいしそうなパンが描かれている場面では、友だちの間で「あのパンがすき」「ぼくはこっちの方がいい」と騒いでいた気がします。
幼稚園の頃の思い出は成長するにつれて徐々に薄れていきます。読書の対象も小説・ノンフィクションへと移り、あんなに楽しんでいた絵本の記憶もいつしかなくなりました。こげパンに夢中になったこと、絵本の題名などすっかり忘れてしまいました。
『からすのパンやさん』に再会したのは大人になってからです。偶然手に取った『からすのパンやさん』をめくっていると、突然、幼い頃の記憶がよみがえってきました。思い出したのは絵本のストーリーだけでなく、こげたパンの香りや、小さい時に遊んだ公園の風景など様々な淡い思い出です。私は大きくなり、絵本を読んでもらう立場から、読む立場に変わったかもしれませんが、4羽のカラスは変わらずこげパンを食べていました。おいしそうなパンの絵を凝視している子どもたちの姿もまた、昔も今も変わっていないと思います。
川崎市でセツルメント運動をされていた加古里子さんは1959年に『だむのおじさんたち』(「こどものとも」1959年1月号、福音館書店)(ブッキングより2007年に再刊)でデビューされました。その後、1967年に『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)、1973年に『からすのパンやさん』など多くの物語絵本から、1962年に『かわ』(福音館書店)、1979年に『よわいかみつよいかたち』(童心社)(掲載している表紙は1988年に出版された新版)などの科学絵本まで、幅広いジャンルで旺盛な創作活動を続けられました。デビュー以来60年近くの時が経ちましたが、加古さんの著作は今の子どもたちにも引き続き愛されており、三世代にわたって親しまれ続けています。
加古さんは「まだまだ書きたいことがいっぱいある」と最近まで執筆活動を続けていらしたそうです。2018年1月にも「だるまちゃんシリーズ」の新作(『だるまちゃんとはやたちゃん』 『だるまちゃんとかまどんちゃん』 『だるまちゃんとキジムナちゃん』いずれも福音館書店)を3冊同時に出版されるなど、その創作活動は永遠に続くものだと思っていました。
長い間、子どもたち、大人たち、そして世の中全体を楽しませ、科学の世界へも親しみやすく誘っていただいた加古里子さん、本当にありがとうございました。
加古里子先生の著作はデビュー以前のものも含めると600点以上と言われています
■加古里子先生の著作一覧(世田谷区立図書館所蔵分のみ)■