文字・活字文化の日記念講演会「本と雑誌 迷宮の世界」を開催しました
- 全館
- 掲載日2021年10月30日
-
令和3年10月16日(土曜日)、エッセイストの宮田珠己さんをお招きし、文字・活字文化の日記念講演会「本と雑誌 迷宮の世界」を開催しました。
講演会の前半は、宮田さんが気になっている雑誌についてお話いただきました。近年の出版業界では、紙の雑誌の売れ行きが落ちこんでいることもあり、「どうせ売れないなら好きなものを作ろう!」という動きがあるそうです。そういった編集者の情熱が注ぎ込まれたマニアックな雑誌を沢山紹介していただきました。
例えば、マニアックなスポットを紹介している雑誌『ワンダーJAPON』(スタンダーズ)。元は『ワンダーJAPAN』(三才ブックス)という名前で十数年間発行されていましたが、のちに休刊。どうしても雑誌を続けたいと考えた編集者が、名前を変えて別の出版社で復刊したそうです。
ほかにも廃墟やレトロスポットについて取り上げている雑誌『八角文化会館』(八角出版部)について、廃墟となったパチンコホールやパチンコの盤面、その他パチンコに関する記事だけで構成された号を紹介してくださいました。
このような雑誌は通常の書店では取り扱っていないことも多く、フリーマーケットやコミックマーケットなどで販売される場合もあるそうです。図書館では雑誌を多く所蔵していますが、それでも初めて目にするタイトルばかりで、奥深い雑誌の世界を知ることができました。
講演会の後半は、宮田さんが気になっている図書をジャンルごとに紹介していただきました。旅に関する本を多く出版されている宮田さんは、ご自身でも「旅」をテーマにした図書をよく読まれるそうです。
宮田さんが旅の本の書き方を学ぼうと思い読んだ随筆『第一阿房列車』(新潮社)は、著者がただ列車に乗っているだけで、特に大きな出来事が起こるわけでもないのに、とても面白い本なのだそうです。読み込んでみると面白くさせる様々な工夫が見つかったとのこと。この本では「ただ電車に乗っているだけ」ということが度々強調されるので、読者は「何も起こらないんだな」と覚悟ができる、そのためちょっとした出来事でも十分楽しめる、といった構成になっていることなどを教えてくださいました。
また、「幻想」のテーマで紹介してくださった中の1冊が『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』(講談社)です。言い伝えや伝説を100以上集めた本で、「この教会の石を砕いて置いておくとハエが寄ってこない」「この泉の水を飲むと永遠に32歳の若さを保てる」など、ページをパラパラめくって拾い読みをしても楽しめるおすすめ本とのことでした。
質問コーナーでは多くの手が挙がり、一つ一つの質問に丁寧に回答してくださいました。
ここで時間の都合で紹介しきれなかった「散歩」に関する本についても触れてくださり、同じ道を歩いていても樹木に着目する人がいれば、室外機に着目する人などもいて、人によって着眼点が異なることをお話くださいました。本を通して色々な人の散歩の楽しみが伝わってきました。
参加者のアンケートでは、「”採算度外視”の雑誌や、ご自分が面白いと感じた本の紹介がとても楽しく、講師が本当に面白がっていることがよく伝わってきました」「もともと著作が好きだった宮田さんに直接お話を聞けて嬉しかったです。たくさん本を読む人ならではの独特のキュレーションで本をおすすめしていただけて、たいへんためになりました」「宮田先生の本は2冊だけ読んだことがありますが、本を読んだ時の印象とご本人の印象がだいぶ違い、意外でとても面白かったです。お話に引き込まれました」などのご感想をいただきました。
軽快な語り口で、あっという間の2時間でした。本と雑誌の奥深い世界に触れることのできた講演会となりました。
※講演会当日の配布資料はこちら(PDF形式:968KB)からご覧になれます。